それは天の恵みのように降り注ぎ、触れれば重きを感ずる。





















命玉
イノチダマ






















「母ちゃん、みて。また兎を採ったんだ」


そう言うのはまだ8歳ぐらいの男の子。片手に兎を持ち、もう一方はただ拳を握っていた。


「あら、凄いわね。ありがとう」


そう母親が言うと男の子は嬉しそうに笑った。






ギンコは山道を歩いていた。あまり人が通らないのであろう。道らしい道はあまりなく、草花が生い茂っていた。


(もう3日ぐらい山にいるか・・・。ろくなモノも食べて無いな)


そんなことを思いながらギンコは足を進めた。


(ん?道がしっかりしてる。草花も生えてない。民家があるのもかしれん。見つかったら休ませてもらおう)


人が何度も通っているらしく、その道は固く、人一人通れる幅で草花は無く、土が見えていた。
その道を進むと突然道が開け、草原のようなところにポツンと民家が一軒あった。
ギンコはその民家に行き、声を出した。


「すみません」


ギンコの声を聞き、女が扉を開けた。


「あぁ、どうも。もしよければ泊めていただけませんか」

「あら、旅のかたですか?この山は大変でしたでしょう。どうぞ、お泊まり下さい」

「ありがとうございます」


足を踏み入れると閑散とした景色が広がった。必要最低限のモノしか置かれておらず、無駄に広い家が余計に広く感じられた。


「一人でここに・・・?」

「いえ、息子と2人です。昔は私の母も一緒に暮らしてたんですが、死んでしまって、今は2人なんです」

「失礼ですが、旦那さんは?」


女は一瞬目を伏せた。しかしまた、ギンコを見ながら話し始めた。


「息子が生まれて間もなく、死んでしまいました。まるでそれを悲しむかのように息子の夜泣きが酷くて、近隣の人に文句を言われまして、それでここに移ったんです」

「そうですか」


扉の開く音がした。


「母ちゃん、ほらまた―――― ・・・・誰だ?誰だお前!!」


わんぱく小僧という名前が似合いそうな少年がギンコに向かって叫んだ。


「正太、大丈夫よ。この方は旅の人。泊めてあげるの。大丈夫よ」


息子をなだめるように母親は話した。


「ギンコです。お世話になります」


ギンコは会釈をした。


「あら、鳥を捕まえたの?」


母は息子が手にしたモノを見た。


「そうなんだ。結構大きいでしょ?」

「へぇ、狩人か。その歳で腕がたつな」


少年が捕まえた鳥をまじまじと見てギンコが言う。


「違うよ。罠を仕掛けたら勝手にひっかかるんだ」


不思議そうに少年が言う。


「・・・・どんな罠だ?」


ギンコは素早くそう聞いた。


「・・・普通のだよ。どうして?」

「いや・・・・なんでもない。気になっただけだ」


その夜は正太の捕まえた鳥が豪華に食卓を飾った。しばらくろくなものを食べていなかったギンコは、それをたいそう嬉しそうに食べた。


「ギンコさん、ご飯のおかわりいりますか?」

「あぁ、すみません」

「ギンコ、この米はな、俺と母ちゃんが作ってるんだ」


嬉しそうに正太はギンコに言った。


「そうか。だからこんなに美味いんだな」


ギンコは笑ってそう言った。

夜の帳が下りた頃、親子は寝息を立てて眠っていた。しかしギンコは目を覚まし、そして正太のもとへ向かった。すると何か粉のようなモノを天井高く振りかけた。


「命が降り注いでいる」


ギンコは一言そう言った。






次の日の朝、ご飯を食べると正太はまた外へ出て行った。


「今日もちゃんと獲物とってくるから!」


そう元気に言って、彼は出て行った。
彼が出て行くとすぐに、ギンコは母親に言った。


「少し、お話がしたいんですが、いいですか?」


母親は不思議そうな顔をギンコに向けたが、快い返事を返した。


「あなたのお母さんが一緒に暮らしていたんですよね?」

「えぇ」

「死んだというのは、何かご病気でも?」

「いえ、ある日の朝、突然死んでしまったんです。病気なんて全然しない、本当に健康だったんですが・・・・」


ギンコはしばらく黙り込んだ。何かを考えているようだった。


「では、正太が危険な目に遭ったことは、ありますか?」

「あ・・・・はい・・・・。実は1度、崖から落ちたことがあるんです。だけど、普通にピンピンしてて・・・」

「そうですか・・・・。正太が崖から落ちた後に、あなたのお母さんが亡くなりましたか?」

「え・・・えぇ。確かそうです」


またしばらくギンコは黙り込んだ。何かを言おうとしては、口を閉じた。それが気になり、母親が聞いた。


「あの子が何か?」


ギンコは一度深呼吸をして、それから母親の目をじっと見て一言、言い放った。


「あの子はもう死んでいます」


母親は今言われたことが理解出来ずに、困惑した表情を浮かべていた。


「何を・・・何を言うんですか?あの子は・・・あの子は立派に・・・・生きてます・・・」

「恐らく崖から落ちた時に死に、そして蟲がついたと」

「・・・どういうこと・・・・ですか?」

「命長(めいちょう)という蟲です。死んだ人間につき、周りの生命から命を奪い、生きていくのです。少し蟲の匂いがして気になったのと、あの子が何もせずに鳥などを捕らえられることが気になって、昨日の夜に調べました。貴方のお母さんが突然死んだのは、あの子に命を取られたのです」

「そんな・・・だって・・・・」

「命長という蟲は人間にしかつきません。野性の動物についても命を取れない。夢を見ないからです。命長は夢の途中で目を覚まさせ、夢の途中だと思わせ、命を奪わせるのです」

「そんな・・・」

「これはその蟲を殺す薬です。お茶などに混ぜて飲ませればいい。どうするかは、貴方が決めて下さい。けれど覚えていてください。命を奪えば奪うほど、彼自身が・・・彼で無くなっていきます。命長は、心を食べる代わりに、命を差し出すんです」


正太の母親は泣き崩れた。ギンコはすっくと立ち上がり、外へ出て行った。
しばらく歩くと、少年の姿が見え、それに声をかけた。


「あ、ギンコ」


嬉しそうに笑ってみせた。


「今日は何か捕れたか?」

「うん。ほら、ウサギ」


得意げにそれをギンコに見せた。


「正太」


ふと、少し重い声でギンコがそう言った。


「ん?」

「お前、夢の中で、何か粘土の塊みたいなのが降ってこないか」

「・・・・・アレは・・・・・・アレは何?俺にしか見えないんだ。ギンコは見えるのか?母ちゃんは見えないんだ」

「それはほとんど紺色をしてるか?」

「うん。だけど・・・・」

「一つキラキラ光っているのがあるだろ?」

「うん。だけどギンコが来てから増えた」

「一度、それを手にしたか?」

「うん。気になったんだ。それに、2つあったから」

「もう二度とそれに決して手を触れるな。大切なモノを失うから」

「・・・・うん。・・・ねぇ、ギンコ」


少し不安そうな声だった。それはわんぱく小僧とはかけ離れた声だった。


「なんだ?」

「俺、おかしいんだ。たまに、自分がわからなくなるんだ。なんだか・・・怖いんだ・・・」


ぎゅと、ギンコの服を掴んだ小さなその手は、微かに震えていた。


「それを、母ちゃんに言うんだ」


正太の頭をくしゃくしゃとなでて、ギンコはそう言った。


その日の昼ごろに、ギンコはその家を出て行った。色々と世話になったと短めではあるが、挨拶をした。
これからこの親子がどうなるのかは、それぞれ次第であったから、ギンコはもう介入しようとは思っていなかった。決めるのは、他人ではなく自分である。
そしてギンコは思った。

人の命は、たとえどんな人間のモノだろうと、輝いている。












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   多少の投げやり感が否めないぜ☆☆
   本編とはまったく関係ない、勝手な話です。
   20080319