目を覚ました。眠っていたらしい。窓の外はもう薄暗い。どれほどの間、俺は眠っていたのだろう。俺は何を思い出しているのだろう。忘れたいはずなのに、捨てたいはずなのに。過去に捕らわれているのか?
あの日以来、俺はに会っていない。俺は卒業式には行かなかった。と顔を合わせるのが嫌という理由もあったが、それよりも大したことも無かった高校生活が終わることに対して、特別な感情などわかなかった。
だけど本当はそんな特別な感情がわいていたこと、大したことまみれだったということを知ったのは、社会人になってからの話。
扉の開く音が聞こえた。しばらくするとリビングに桂が現れた。



「なんだ、朝のまんまじゃないか」

「早いな」

「あ?あぁ、仕事が早目に片付いたんだ」



格好よろしい台詞だこと。



「それよりお前、何してたんだ。朝となんも変わらないじゃないか」

「寝てた」

「・・・有意義な生活だな」

「ハハハ」



明らかに嫌味だということはわかっている。だけど俺は何も言い返せない。そんな言葉を持っていなければ、そんな立場も持っていないからだ。



「そうだ。明日が来るって」



・・・・彼は何を言った?が来るだと?いや、何回も来たことはあった。ただいつも俺は都合よく会わないように、バイトだとか嘘をついた。明日もそれでいい。



「お前に会いたがってたぞ」

「俺用事あるから」

「いい加減、会えよ。何だよ。なんか後ろめたいことでもあるのか?」



変に鋭い。というか・・・こいつは知ってるのか?はこいつに言ったのか?もしもしっているなら、こいつはどんな思いで今の俺をみてるんだ?
ふと恐怖が体を巡った。知らないんだとばかり思っていた。いや、思っていたかっただけ。知っているとしたら?



「まぁ、いい。飯当番、お前だろ」

「あぁそうか。はいはい、作りますとも」



ふと気にしだしたことが、頭にこびり付いて離れない。
きっと桂は知らないさ。
そう思っていよう。そう自分に言い聞かせた。




次の日、俺の実際の予定は午前中だけがバイトだった。だけど家には帰りたくなかった。だから俺はバイト仲間と酒を飲むことにした。
もう時間は真夜中を過ぎていた。みんなが帰りだしたので、俺も帰ることにした。
家の鍵は閉まっていた。扉を開けると珍しく暗闇が広がった。桂は俺が帰ってくるまで絶対に玄関の電気は消さなかった。俺がケガをするかもしれない、なんていう変な優しさだった。
とどこかに行ったのか・・・・・。
家に着くなり俺は床に寝そべった。そして床を這うようにして台所に向かい、壁をつたって起き上がり、水を一杯、一気に飲んだ。その後ふらついた足でリビングに行き、ソファーに倒れた。



「大丈夫?」



声がする。誰だ?桂?いや、違う。桂じゃない。じゃあ誰だ?誰が・・・?



「無理したんじゃないの?」



この声は・・・あいつだ。だけどそんなはずはない。あぁ・・・そうか。夢なんだ。俺は夢を見てるんだ。



「別に・・してない・・・・・」



夢の中で俺は答える。だけど俺は目をつぶっているのか、あいつの姿は見えなくて、ただ真っ暗だった。声だけが響いていた。



「・・・いつもわかんなかった」

「なぁ・・にが?」



飲みすぎた。気持ち悪い。



「銀時が何を考えてるのか」

「別に・・・・わからなくていい・・・だろ・・・・。おま・・・えは・・・・・桂しか・・・見てなかった・・・・」

「私、銀時は私のこと嫌いなんだと思ってた。私と目を合わさないから」

「ハハ・・・」



笑えない冗談を言うなよ。好きで好きで、たまらなかった。誰よりも愛しかった。お前さえいればいいと思った。それぐらい好きだった。
目を合わさなかったんじゃない。合わせられなかったんだ。見ていたくなかったんだ。桂と仲良く喋る様を。



「あのキスも嫌がらせだったんでしょ?」

「ち・・・ちが・・・・・」



飲みすぎた。言葉がでない。気持ち悪い。だけど言わなきゃいけない。言わなきゃ、いけないんだよ。



「私、あのことはもう忘れるから、だから銀時も忘れて。私のことも全部」

「ちがうっ!!」



やっと・・・声が出た。



「ちがう・・・・嫌がらせとか・・・・そんなんじゃねぇ・・・・・。俺は・・・俺は・・・・本気だった・・・・。好きだった・・・・だから・・・した・・・・。忘れるなんて・・・言うな・・・・・。忘れて・・・ほしくない・・・・。俺は・・・お前を忘れるなんて・・・・出来ない・・・・。今でも・・・・・・・好き・・・・だ・・・・」



何度も忘れようとした。だけど出来なかった。忘れようとしればするほど、リアルに思い出した。あの唇の感触を。触れたいと心から思う人間は・・・女は・・・お前ただ一人なんだ・・・・





目が覚めたのは、カーテンを閉め忘れた窓から朝陽が差し込んできて眩しかったからだった。重い頭を持ち上げて、俺は窓の外を見た。それから部屋を見た。誰も居ない。桂・・・帰ってきてない。
昨日のアレはやっぱり夢だったのか。俺はまだまだ、を忘れられないのか。昨日の今日で、俺はよくこんなにも色んなことを思い出すな。押し込めた気持ちが全部出てきているのだろうか。忘れる気など、捨てる気など、本当はないのかもしれない。

俺はまた水を一杯飲んだ。ノドが妙に乾いていた。

夢だったのかよくわからない夢。
だけどこの現実も夢の続きなのかもしれない。
俺はもしかしたら大事故に遭って、ずっと意識不明で夢の中を彷徨っているのかもしれない。
そして目が覚めたらあの時代。俺はまだ高校生。
そして言うんだ。「好きだ」って。

それもまた夢でしかない。現実はこの妙に重たい頭のある、この場所。







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   そろそろ終わりの唄を唄いだそう。