他人事のようにしかみたことがなかった。もしも自分がなんていう想像は一度も考えたことはなかった。考えるだけ無駄だと思った。俺には関係のないことなんだと、端から決めつけていた。
自分が結核になるだなんて。



「なんだ総悟、咳なんかしやがって。夏風邪にでもなったか」

「クーラーつけて寝たから喉痛めただけでさァ」


最初は本当にそうだと思っていた。けれど咳はなかなか止まらなかった。


「総悟、どうしたの?大丈夫?病院行った?」


彼女のはヒドく俺を心配していた。けれど俺はそれを余計なお節介だと、煩わしく思っていた。


「大丈夫でィ。百日せきとかいうやつでさァ」

「本当?病院行ったの?」

「・・・あぁ」


嘘をついた。病院なんて行ってなかった。けれど行ってないと言えば、また何かごちゃごちゃ言われると思い、俺は嘘をついた。
その嘘を俺は後悔するなんて、思いもしなかった。嘘を後悔するなど、実に稀なこと。

逃げられないと思ったのは、咳をした時に血を吐いた時だった。


「総悟?お前」


横にいたの土方さんは俺の手をみて驚いていた。本人ですら驚いていたのだから当たり前だ。


「だ・・・・大丈夫でさァ」

「んなわけあるか。病院行くぞ」


無理やり連れて行かれた病院の医者から結核だと言われた。そうですか。としか言えなかった。何を言っても治らないことはわかっていたからだ。
素直に受け入れたフリをしていたが、心はぐちゃぐちゃだった。
仕事にはもう出るなと近藤さんに言われた。
自分が病人だと自覚したのは、寝巻きを昼日中から着て、布団に寝かされた時だった。

―――― には知らされたのだろうか。

天井を見ながら始めに考えたことがそれだった。
アイツはどんな顔をして、どんな思いを胸に抱いて今の状態の俺をみるんだろう。

―――― 会いたくない

その気持ちが徐々に強くなってくる。
こんな俺をみられたくない。みてほしくない。同情の目を向けられたくない。哀れな俺をみられたくない。
扉の開く音にひどく驚いた。俺は扉に背を向けた。


「総悟」


太い声。土方さんの声だ。ではないと思い扉のほうをみた。


「大丈夫?」


だ。


「ゆっくりしてけ」


そういって土方さんは部屋を出た。俺はまた扉に背を向けた。は俺の背中側に座った。


「近藤さんと土方さんが話してくれた」


背中側からする声が寂しそうな、何か悲しそうな声だった。

―――― だから嫌なんだ


「寝てるだけじゃつまらないだろうから私ね、色々持って来たの。本とか漫画とか。他にいるものがあったら言ってね」

「どうも・・・」


は言葉を探していたのだろう。しばらく黙ったままだった。
いつものような会話をしてくれればいいモノを、俺が病気だと知った途端にこうだ。

―――― だから嫌なんだ


「帰りますかィ?」

「え?」

「話すことも特にねェんだろィ?」

「そういう訳じゃ・・・」

「他に男でも作ったらいいんでェ。土方さんなんてどうですかィ?優しく――――


言葉を失ったのは、ふと薄汚く汚れた自分に気がついたからだった。
単なる八つ当たりだ。俺だっていつものような会話が出来てないじゃないか。
背中側からまた彼女の声がする。


「総悟の辛さとか悲しさとか苦しさとか、きっと私はわかってあげれないと思うの。わかろうとしても、きっと大事な部分がわからないと思うの。だからね、ぶちまけてくれていいから。八つ当たりしてもいいから。また来るね」


は帰って行った。

彼女のために少しでも長く生きよう。少しでも多く笑おう。
一瞬でも多く、君をみよう。
その日そう決意した。




病状は悪化の一途を辿った。日に日に死というものがリアルになってきた。





あと何度、君の名前が呼べるだろうか。


「何?」

「ごめん」

「どうして謝るの?変なの」


あと何度、君の笑顔を見れるだろうか。


「こんなんになってごめん。幸せにできなくてごめん」


前には進めないとわかった日から俺は何度も謝りたかった。
あの時心配してくれていたのに嘘をついてごめん。
あんなことを言ってごめん。
他にも色々・・・ごめん。


「私は幸せだよ」


君の笑顔を決して忘れない。


「ありがとう、


誰よりも愛しい人。君を愛した奴からの願いを一つ聞いてくれないか。
俺が死んでも・・・


生きて、愛しい人








--------------------------------------------
   こんなのでよろしかったでしょうか。
   甘さも絡みも全然無いですね。

   総悟夢小説onlyお題サイト「A prince of S」様に捧げます。