少ししだけ楽になりたい。

そう言った後、彼女はどこか遠くを見ていた。俺は何も言えずにただその彼女をみていた。













君と海と―――


















彼女はよく笑いよく泣いた。泣いたかと思えば笑い、笑ったかと思うと泣いた。
彼女はいつも忙しそうにしていた。俺はそれについていけなくて、ただ適当に相づちをうちだけだった。
俺は何も出来なかった。



「ねぇ、晋助。海見たことある?」



俺の顔は見ず、空を見上げながら言う。その顔は妙に真顔だった。



「・・・あるけど。お前もあるだろ」



一緒に行ったことがあるのにおかしなことを聞く。



「もっと青い海。空の色がキレイに映ってる、そんな海」



ずっと同じ顔で空を仰ぐ。



「それはないな」



海なんて何処も一緒に思える俺にはどうでもいいことだった。

彼女は天ばかりを仰ぐ。俺を見ようとしない顔に手をやり、無理やり俺のほうに向ける。



「何?」



驚きもせず、笑顔を俺に向けて言う。



「いつか一緒に行けばいい」

「ありがとう」



心のこもってないありがとうを彼女は言った。俺は何も言わず彼女の顔に置いたままの手に少しばかり力をいれ、唇を重ねた。
彼女はふと微笑んだ。何も感じさせないようで、様々なことを感じさせる。そんな独特な微笑みだった。





それから2日経った時、彼女は忽然と消えた。俺は迷わず海に出向いた。

春の風に髪をたなびかせながら、彼女は裸足で海岸に立っていた。
彼女の手がふと空に上がった。
届かぬ雲を掴むように、眩しい太陽を掴むように、細くて長い腕が空へと伸びる。その手を彼女はじっとみている。
まるでそれは映画のワンシーンのような、綺麗な絵だった。心を何処かへ持っていかれそうになる。俺はただそんな彼女を見ながら佇んでいた。いつの間にか、彼女のところへ行こうとしていた足が止まっていた。
絵の綺麗さで、知らぬ間に。
心は最初から持っていかれてしまっていた。

空へ伸びる手が下ろされ、彼女は海をみた。
足が進んでいく。砂に足跡をつけながら。そして海の水を受け始める。







名前を呼ぶとその足はとまり、顔は俺をみた。
俺は少し足を海につけた彼女の下へ行った。



「何してるの?」



作り笑顔で俺に聞く。



「それはこっちのセリフだ」



俺が問うと彼女は顔を海のほうへ向けた。



「・・・海が・・・・海が私を・・・呼んでるの。こっちに来いって。楽になれるからって」



果ての無い海を見ながら、潮風に髪をたなびかせながら彼女は言った。
俺は柔らかな光に照らされていたはずなのに、寒気がした。



、どうしたんだ?」



俺は不意に色んなことが怖くなって、彼女の腕を掴んだ。



「楽になりたいの。ただ・・・・それだけ」



掴んだ彼女の腕が小刻みに震えていた。その震えの根源を俺はまったくわからなかった。



、帰ろう」

「もう・・・呼ばないで」



彼女の目から涙がこぼれ出す。



「どうして泣くんだ」

「だって晋助は・・・・あんな心無いキスをした・・・」



どこでどうなってそうなったのか分からない。だって俺は真っ直ぐ進んで来た。気持ちを真っ直ぐ彼女に向けてきた。



・・・」

「晋助、本当のことを言って?」



泣きながら俺の目をみる。涙が海に落ちる。



「俺にとっては大切な人だ。どこにいたって見つける。お前が空に輝く星になったってすぐにお前がどれかわかる。だけどそんな空に輝くより、俺は今みたいにこうやって目の前にいて、俺の話を聴いてくれるお前がいい。だから・・・・」



何故だかわからない。どうして涙が出てくるのか。
流した涙が海の一部になっていく。



「何処にも行かないでくれ。お前の悲しみも絶望も、全部一緒に背負うから。だから・・・・俺を独りにしないでくれ」



俺の掴んでいない方の彼女の腕が俺をそっと包み込んだ。俺は彼女の胸に顔をうずめた。

「ありがとう」と「ごめん」を彼女は泣きながら何度も言った。
顔を上げ、彼女を見て俺は言う。「帰ろう」と。
本当の笑顔で彼女は頷いた。





また歩いて行こう。二つの道を一つにして。

一緒に。














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   ポエマー高杉を一応意識しました。
   お後がよろしくないようで・・・・。←おい!