総ちゃんの家族が死んだ。総ちゃんは独りになった。






幼すぎたあの日の僕等







「総ちゃん」


お葬式が終わり、庭の隅でしゃがんでいる彼に声をかける。彼の顔はどことなく青白く、まるで彼も死んだかのようだった。冷たい目をして私を見る。


「その呼び方はやめろって言いやせんでしたか?」

「ごめん・・・」


何もいい言葉が見当たらなくて、私は総ちゃんの隣にしゃがんだ。


「なんの用でェ」

「なんでもない」


彼は構われたくないのだろう。だけど私はそんな彼を構いたかった。そう思っていると彼の口が動いた。


「・・・・・俺、ここからいなくなる」

「え?」


予想だにせぬ言葉が彼の口から出る。私は彼のほうを向く。彼は下を向いたまま、そこにある草を抜いた。


「伯父さんところに行くんでさァ。仕方のないことでィ」

「そうだね・・・」

「元気で」

「いつ、いくの?」

「早めがいいって。学校も変わるし」

「寂しくなるね」

「・・・・・あぁ」


どうしても私は、向こうでも元気でねとか、頑張ってねとか、そんな言葉が言えなかった。
向こうに行かなくていい。頑張らなくていい。ここにいればいい。
まだ中学生の私はそんな甘い考えしか持っていなくて、そして総ちゃんがどこかへ行くのは、あまりにも非現実的だった。

生まれた時から一緒だった。家が近所で家族ぐるみの付き合いだった。いつだって、どこにいたって、帰ってくるのは総ちゃんのいる場所だった。
私が迷子になったときも、見つけてくれたのは総ちゃんだった。ケガだらけで、汗まみれで、それでも私に手を差し伸べてくれた。いつだって私は、その手に縋りついた。
総ちゃんは、私の中であまりにも大きな存在だ。


「みんなには、言ったの?」

「お前より先に、誰に言うんでさァ」


話している時私はずっと総ちゃんを見ているのに、一度も総ちゃんは私を見なかった。ただ地面をみて、草を抜いて、それを投げた。
ねぇ、総ちゃん。総ちゃんがいなくなるのは寂しいよ。私は何も出来ないのが、とてももどかしいよ。







「総悟くん、沢山たべてね」

「ありがとうございます」


総ちゃんは伯父さんの家に行くまでの少しの間、私の家で暮らすことになっていた。けれども彼は大体家に行って荷造りをしていた。夜も独りであの家で眠っていた。
ある日、いつもなら夕食の時間には必ず来る総ちゃんが来なかった。私は総ちゃんの家に行った。


「総ちゃん?」


玄関の扉は開いていた。わたしはそれをそっと開け、玄関先から彼の名前を呼んだ。返事はない。
知っている家。わかっている、総ちゃんの部屋。階段を上り、その扉をそっと開ける。
ベッドの上に座っている。


「総ちゃん、ご飯だよ」

「・・・・・お前はいつまで俺を、そう呼ぶんでィ」

「ごめん・・・・」


私は扉のところに立っていた。総ちゃんが来ると思っていたから。けれど総ちゃんは動こうとはせず、ベッドの上に座って窓のほうを向いていた。
私のことを最近みてくれなくなった。恋人同士でもないのに私はそう思ってしまった。


「ねぇ、総ちゃ―――― ・・・・・」


ふと思い出し、言葉がとまる。


「・・・姉上を思い出す」


私が彼を総ちゃんと呼ぶのは、彼の姉の影響だった。


「父さんも母さんもたまにそう呼んでたんでェ」

「ごめん・・・」


窓に映る彼の顔が、なんともいえない悲しい笑いを浮かべていた。


「お前は、謝ってばかりでィ」

「・・・・・」


何も言えなかった。また「ごめん」しか思いつかなかった。


「考えるんでェ。どうして俺独り、残ったんだろうって。俺も一緒に死ねば良かったんでさァ。生き残る意味なんてない」


今の彼には私にはわからない大きすぎる荷物を背負っている。私にはそれを軽くすることも、それを一緒に持ってあげることも出来ない。だけど、言葉で少しだけでも楽になってくれるなら、私は言う。


「私は、総ちゃんがいなくなったら嫌だよ。死んじゃったら、すごい悲しい。こんなこと言ったらダメかもしれないけど、総ちゃんが生き残ってくれて良かった。離れ離れになっちゃうけど、また会えるよ。だって私たちは生きてるから」

「・・・向こうに行ったら誰が俺をそう呼んでくれる?誰もいない。誰もそう呼ばない」


彼は自分の体に顔をうずめた。


「総ちゃん」

「もう・・・呼ぶな・・・。悲しくなる」

「大丈夫だよ」

「お前も俺を忘れるんでェ」

「忘れるわけないじゃんか。離れたからって、忘れるわけない」


すすり泣く声が、静かな家に響く。


「総ちゃん、大丈夫だよ。辛くなったら電話でも手紙でも、なんでもいいから連絡してくれればいいよ。私は絶対に総ちゃんのこと、忘れないから」


ありがとうという言葉が、すすり泣く途中で聞こえた。人は誰も強くはない。
この時私はわかった。私の総ちゃんに対するこの思いは、家族愛とかそんなんじゃなくて、私は総ちゃんに恋をしているんだって。





別れの日がやってきた。総ちゃんは優しく微笑んで私に言った。


「また、会いやしょう」

「うん」

「・・・・

「何?」

「あぁ・・・・」


総ちゃんは口ごもって、下を向いた。


「何?」

「・・・なんでもねぇでさァ。元気で」

「うん!総ちゃんもね」



私たちは笑顔でサヨナラを言い合った。それしか、出来なかったんだ。




あの日の僕らはあまりに幼すぎて、ただ別れの悲しさしかわからなくて、好きだよの一言も言えず、それが後でどれほど大きな後悔となるかなんて知らなかった。
だからもしも、あの時に戻れるなら、言いたいんだ。大きな声で、君の前に立って、好きだよって。











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   名前変換極小。ごめんなさい。
   続編を書きたいと思う作品です。20070728