梅雨のせいで部屋も外もじめじめしていた。体がベタベタとして気持ち悪い。
どうにも体がベタベタするものだから土方は上半身裸で自分の部屋にいた。


「トシ」


近藤が扉を開けた。


「なんすか?」

「お前暇か?」

「はぁ・・・」

を手伝ってやってくれ」

「はい」


土方は重い腰を上げ、近藤の横を通っての部屋に向かった。
スパンっという音を立てて、の部屋の扉を開けた。


「手伝いに来た」


ぶっきらぼうに言う。その相手をはじっとみて言った。


「ありがたいけど、服着てよ」


土方は自分をみた。上半身裸。


「めんどい」


はため息をついた。大して気にもならないが、やはり少しは気を使ってほしかった。


「そこのやつ、ダンボールに入れて」


土方は腰を下ろし、言われた事をし始めた。
背中合わせで相手が何をしているのかわからなかった。視界には入らないものの、なんだか気になって仕方がない。
土方が口を開いた。


「お前が嫁に行くとはな」

「私もトシ・・・・副長以外に私を好きになる人なんていないと思ってました」

「嫌味か?」

「嫌味に聞こえたなら謝ります」

「どんな奴だ」

「良い人。とーっても良い人です」

「嫌な言い方だな」

「嫌な人ですね、副長は」

「そりゃどうも」


それから2人は黙々と作業を続けた。そして互いに思い出していた。自分たちの過去を。


付き合った年月は3年。気がつけば互いに惹かれあっていた。
最初は幸せだった。笑ってばかりいた。互いの体にもよく触れた。その度に愛は強まっていった。
愛が最高点に達してしまえば、あとは落ちていくだけ。愛は知らぬ間に冷めていった。自然消滅のようなモノだった。互いにどうしたらいいのかわからないままの時、の結婚が決まった。


「結婚相手はセックスうまいのか?どっちにしろお前感じやすいから――――

「なんでそんな話をするんですか」


不愉快に感じたのだろう。怒るように大きな声を出して土方の言葉を遮った。


「悪かったな」


土方は謝る気のない声でその言葉を言い、立ち上がって部屋の扉を開けた。
出て行くのだろうとはみていたが、扉の場所で立ち止まった。


「真撰組辞めるのか?」

「辞めません」

「あっそ」


土方は部屋を出て行った。最後のはなんなんだろうと思いながら、作業を続けた。
屯所を出て行くのは嫌だった。毎日通うのはめんどくさいように思えたし、疲れるように思えた。
けれども結婚相手が屯所に留まることを許してくれなかった。確かに自分の結婚相手が男まみれの場所に住むのは嫌だろう。
仕方なくは屯所を出て行くことした。
本当は仕事を続けることも反対されていたが、そこは我を通し、向こうが折れたのだった。




ある日のことだった。はパトロールに行くためにパトカーに乗った。


「あ―ちょっとそこまで乗せて・・・・」


土方だった。後部座席に座ろうとしながら言った言葉が途中で途切れたのは、運転席に座っているのがだと気付いたからだろう。


「出発しますよ?」

「あ、あぁ。頼む」


エンジン音が鳴る。暑さを消すためにクーラーが入る。強い風と音。そんなモノでは2人の間にあるもどかしさは飛ばされなかった。


「明後日か。式は」

「はい。・・・副長だけ、まだ言ってくれませんね」

「何を?」

「おめでとうって言ってくれてません」

「・・・・・敬語で話すお前は気味が悪い」

「上司だから敬語を使うんです。おかしいですか?」

「慣れないだけだ」


しばらく2人は黙ったままだった。土方は窓の外の流れる景色をただみていた。


「私ずっと不思議だったんです。副長が女の人と付き合うのが、私が初めてっていうのが」

「不思議か?」

「はい。だって副長はモテるから」

「別にモテねぇよ。・・・・・俺も聞くけど、俺たちっていつ終わったんだ?」


それは互いに触れないようにしていた事実だった。別れようも何もしないまま、の結婚が決まった。2人の気持ちは宙ぶらりんだった。


「・・・・私が・・・・・・私が結婚するのが嫌なら、どうにでもすればいいじゃない!!式の途中でドラマみたいにさらっていけばいいのよ!!トシが・・・・悪いのよ。先に進むことを・・・恐れてるから・・・」

「止めてくれ」


車は止まった。土方は出ようとはしなかった。


「降りないんですか?」

「敬語も副長って呼ばれるのも、なんでこんなに心地が悪いんだろうな」

「知りません」


土方は車を降りた。その時にはもう、土方は自分の気持ちにけりをつけていた。




結婚式当日。屯所は騒がしかった。あちらこちらでネクタイが無いだの、俺のズボンが無いだの、バタバタしていた。


「近藤さん、行きますぜィ」

「おう。トシはどうした?」

「先に行きやした」


結婚式だというのにまるでそんな感じではなかった。その理由は実に簡単だった。真撰組がいるからだ。いかつい顔をした人たちが、どうにも結婚式に似つかわしくなかった。
結婚式も大詰めにさしかかった。誓いの言葉を交し合う。


「誓います」


相手の男はハッキリとそう言った。


「誓います」


もそう言った。その時だった。


「異議あり」


誰もが声の主をみた。タバコに火を付けながら新郎と新婦のほうへ歩き出した。


「そいつとちょっと話したいんだけど、借りれるか。返すかわかんねぇけど」

「君は何を言ってるんだ?」

、来い」


土方は手を差し出した。は迷ったが、相手の男性に「ごめんなさい」と言って土方のほうへ行った。


「トシ、すげぇな」


尊敬に似た何かを匂わすように近藤が言う。


「恥ずかしくないんですかね」


自分なら絶対にやらないというように山崎。


「あとでおちょくるネタになりまさァ」


しめたというような顔をして沖田が言った。
式場に残された人々は行き場なくそこの場に座ったままだった。
そのころ2人は近くの少し隠れられる場所にいた。


「これ、レンタルだから汚れたら困るんだけど」


真っ白なウェディングドレスを邪魔くさそうにしながら言った。


「問題そこかよ」

「何の用?」

「言われた通りにしただけだ」


は返す言葉が見当たらなかった。ありがとうという気持ちでもなかったし、咎める理由もにはなかった。


「・・・なんで結婚決めたんだよ。俺のことどうでもよくなったのかよ。あれは遊びだったのか?俺は本気で、ちゃんと色々考えてた。なのにお前が突然距離置きだして」


土方の本音がこぼれ出した。ずっと思っていたこと、考えていたこと。溢れ出す、君への思い。


「腹決めて言いにいこうとしたら、結婚するなんて言い出して・・・・」

「私の実家、店って言ったでしょ?潰れかけてて、だから金持ちと結婚して助けてあげたかったの。1人娘で出来ることなんて無いから。お父さんとお母さん、店やってるときが一番幸せそうだからその幸せを奪いたく無かった」

「そういうことをなんで言わねェんだ」

「迷惑をかけたくなかったの。私の勝手だから」

「言えば俺だってなんかする」

「何をするの?」

「それは・・・・それは・・・だな・・・・」


目を泳がせながら、土方は考えていた。がため息をついた。


「だぁから言わなかったの。なぁにが真撰組の頭脳よ」

「今すぐに良いこと思いつくわけねェだろ!!」


は怒鳴る土方を蔑んだ目で見た。


「怒るために呼んだの?」

「んなわけねェだろ」

「じゃあ何?」

「わざわざ言わせるのか」

「言わなきゃわかんないわよ」

「嫌な奴」

「そりゃどうも」

「俺は絶対言わないからな」

「何それ。ふざけてんの?」

「俺は絶対言わないからな、おめでとうなんて」


目をそらし、少しばかり顔を赤らめながら土方は言った。はにこりと笑った。


「いいよ。言わなくて。結婚しないから」

「そうしろ」

「そうする」



「何?」

「お前のこと、こう呼ばせてくれないか」

「何?」





最初で最後の恋人






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   すみません。最後のほうめんどくなりました。
   時間があるときにちゃんとします・・・orz
   20070915