理由を100文字以内に述べろと言われたら、多分足りないと答える。
理由をともかく書けと言われたら、多分書けないと答える。
理由は理屈じゃないんだ。私だってわかんないんだから。

























「クサっ!!」



小学校入学初日に隣の男子に言われた言葉がそれだった。



「お前なんでそんな臭いんでェ?ちゃんと風呂入ってるんですかィ?」



返す言葉も見当たらなくて、私は唖然として彼をみていた。ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべたその顔を、私は忘れられない。







「クサっ」



まだ言うか、沖田総悟。高校生にもなって、懲りないのか。



「お前体臭おかしいんじゃねェですかィ?」

「うるっさい!!なら私の近くに来なければいいじゃない!!いちいち側に来て臭い臭いって」

「おー怖い」



私が怒ってもあいつはただ笑うだけ。私を下にみて楽しんでるんだ。私も無視すればいいものをいちいち反応する。反応してしまう。なんでかなんか、わかんない。







どうしてかいつも聞きたいと思っている。だけど聞けない。私を名前で呼ぶ理由。



「何?」



怒ったように答えるのは何かを隠そうとしているから。



「クサい」

「いい加減にしてよ!!本当にムカつく!!アンタなんか大っ嫌い!!」



私はまた、総悟は笑って「おー怖い」とか言うんだと思っていた。なのに怖い顔をして、何も言わずに私から離れていった。



「そ・・・総・・・・悟・・・?」



私の声は彼には届かなかった。それに元々、実に小さい声だった。
彼を名前で呼ぶのは、向こうが私を名前で呼ぶからだった。負けず嫌いと人は言った。

さっきのことが気になって、授業中に総悟をみた。どこか遠くを見てばかりいて、心ここに有らずという言葉が似合う感じだ。総悟は何を思って、何を考えているんだろう。どうして笑ってくれなかったんだろう。どうしてこんなに、気にしてるんだろう。

休み時間のことだった。







ビクリとした。総悟が私をそう呼んだ。



「な・・・何?」



怖い。怖い顔。



「二度と総悟って呼ぶな」



それだけ言ってまた私から離れていった。寂しさに似た何かが体を巡る。

何?私なんか酷いコト言った?アンタが私に言ったことはなんなの?酷くないの?

なんなの?ねぇ、総悟。なんでって呼んだの?

私はあんたのなんなのよ。あんたは私のなんなのよ。







なんだかよくわからなかった。総悟は二度と私に「クサい」と言わなかった。そしてまた、とも呼ばなかった。そんなことよりも、あれ以来しゃべっていなかった。
あれからもう14日が経った。なぜかきっちりわかる私。知らない間に数えていた。

空腹に似た何かが私の中にある。それを取り除くのに必要なモノはわかっている。だけど私は恐れている。またそれが増えること。自分が傷つくこと。

そんな考えを巡らせながら帰っていたら、ゴンっという音がした。カバンが何かに当たったらしい。みてみれば人ではないか。しゃがんでいた頭に当たったらしい。



「あ、ごめんなさい」

「ったァ〜」



最悪と最高が一度にくることは人生においても極わずかだろう。
その人が顔をあげる。私をみて、顔が変わった。



「なんだ、じゃねェですかィ」



やっぱりそう呼ぶのか。



「ボーっと歩いてんじゃねェ」

「うるさい。そんなとこでしゃがんでる総・・・・沖田くん・・・が悪い」

「キモっ」

「何がよ」

「お前が沖田くんって呼ぶのがでさァ」

「なっ・・・あんっ・・・あんたが呼ぶなって」



総悟はクスクスと笑っている。何を笑ってんのよ。なんで私、こんなホッとしてんのよ。なんでこんな嬉しいのよ。



「寂しかったんですかィ?」

「なんでよ」

「泣きそうな顔してたじゃねェですかィ」

「してない」

「そうですかィ。じゃあこれからも最近のような感じで」

「そうしたら寂しいのは沖田くんじゃないの?」



嫌味で私は言ってやった。どうせ「そんなことあるわけない」みたいな答えが返ってくるのはわかっていた。



「そうかもしれねェ」



え?なんてった?



「帰らねェんですかィ?」



少し歩いて立ち止まって、振り返って、私に言う。



「一緒に?」



また総悟はふっと笑う。



「クサいしキモいし・・・」

「何がよ」

「お前がでさァ、



あ、今って言った。ヤバイ。嬉しくて笑ってしまう。



「笑ってらァ。気持ち悪・・・・」



総悟はさっさと歩いて行ってしまった。



「あ、待ってよ!」



私は総悟を追いかけた。総悟は走って逃げていく。


私たちは多分互いに鈍感で不器用なんだろう。これからどうなるかはわからないけど、少し前に進めた気がするよ。




この手に掴ませた願いのカケラ







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   不器用な人が好きなのです。
   20070811