今日もまた、みるのだろうか。君のいない世界で、君の夢を。




















夢の中で聞く君の声






















「ねぇ退」


風の強い日だった。病院の屋上では髪をたなびかせながら俺を呼んだ。その声は明るく、そして楽しそうだった。


「ん?」

「私ね、もうダメかもしれない」


明るい声で言うものだから、俺は冗談だと思ったんだ。


「バカ言うなよ。大丈夫だって。医者も言ってただろ?」

「・・・そうだね、大丈夫だね」


彼女のはガンをわずらっていた。若いの体は普通よりも速くガンに蝕まれていった。
とめることなど、俺にはできない。
俺に出来ることは小さなことばかりで、それで彼女が救われてるのかわからなかった。けれどそんなことを不安がっていては何も出来なくなってしまうこともわかっていた。

もどかしさが積もっていく。だけど、君はもっともどかしくて、不安なんだろう。
思うんだ。こういう時俺はダメだなって。副長なら不器用なりに上手くできるんだろうなとか、局長はきっと優しい言葉をかけれるんだろうなとか、自分に出来ることが何なのかわからない。俺は君に何をしてあげられるのか、わからない。


「退」

「ん?」

「退はそのままでいてね」


明るい声で笑って君は言った。


「・・・こんな俺でいいのか?」


彼女はにっこりと笑って俺をみた。


「そんな退がいいの。私はそんな退にたくさん救われてるから」

「俺は何も・・・」


何も出来ていないと思う気持ちが後ろめたさを生み、俺は下を向いた。
彼女が後ろから俺を抱きしめた。


「あっ・・・えっ・・・・・・」


恥ずかしいぐらいに心臓が鼓動している。


「退・・・・私、恐い」


俺の耳元で囁くように彼女が言った。


「え?」

「死ぬことは恐くないよ。人はいつか死んでしまうモノだから。だけど、退と離れ離れになるのが恐い。退がいてくれたから頑張れた。病気だって知っても生きていこうと思った。治らないと言われても、最期まで生きていこうと誓った」


は知っていたのか。俺は必死で隠してきた。のガンは転移してしまい、取り除いたとしてもすぐに再発してしまうこと。もう、助からないということ。
彼女はその現実をどうやって受け止めたのだろう。独りで悲しさを、辛さを噛み殺したのだとしたら――――


「ごめん、黙ってて」

「何を?」

「治らないこと」


は優しい笑みをこぼした。


「謝らないで。だってそれは退の優しさだって、私わかってるよ。私はそんな退が大好きだから」


俺は情けない男だ。彼女の前で泣くだなんて。


「退?」

「ごっ――― ごめん――― ヒッ――― 俺が――― 泣いて―――


泣きたいのはきっとなのに、どうして俺が泣く。彼女が泣けなくなるじゃないか。
俺の馬鹿野郎。


「ありがとう」


今にも泣き出しそうな声で君は言ってくれた。

君に出会えて本当に良かった。

君を好きになって本当に良かった。

君と恋に落ちて本当に良かった。

君が生まれてきてくれて本当に良かった。
いつその命の炎が消えたとしても。

君が君で本当に良かった。























「退」


君の声が懐かしい。


「お葬式に来たらダメだよ」

「なんで?」


君のその笑顔が懐かしい。


「最期の別れみたいで悲しすぎるから。最期にみてくれるのは、死体の私は嫌。生きてた私がいい。退に笑いかけた私がいい。退が最後にみる私は、それがいいの」

「・・・うん、わかった」

「ありがとう、退」


君のすべてが懐かしい。


「こちらこそ、ありがとう。・・・大好きだ」


そして君のすべてが愛おしい。























「・・・・き・・・山崎!!」

「あつぉっ!!なっ・・何するんですか、副長。ヤキ入れようとしないで下さい」


の夢を見たのに寝起きは最悪だった。副長がタバコを俺に近づけて、灰が少し落ちた。それが熱くて目が覚めた。


「今日はてめェのあれのなんかじゃねェのか。早く行けよ」

「・・・・いいんです」

「あぁ?よかねェだろ」

「夢で彼女が来るなって言ったんです。だからいいんです」

「はぁ・・・?あっそ」


副長は訳がわからない様子だった。それでいいんだ。二人だけの秘密なんだから。



夢の中で聞く君の声はあの頃と何も変わらない。
ただ俺たちの居場所は、居る世界は変わってしまった。

君のいない世界でみる君の夢は、なんだか嬉しくて、なんだかとても・・・・・切ないよ。













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   山崎で書いてみました。
   この話は自分では気に入ってます。
   20070806