俺と桂が前に二人で座らされ、後ろに一人、が座った。後ろからの楽しそうな声が聞こえる。



「あーほら、もうすぐ。カバー、カバー」

「濡れてなんぼだろ」

「びっちゃびちゃになるのは嫌なの。銀時、びっちゃびちゃになれば?水も滴る良い男」

「黙ってろ」

「来るぞ」



乗り物が一気に滑り落ち、バシャーンといって、俺たちに水を浴びせた。
も俺も桂も、みんなびっちゃびちゃになった。

それからも色んな乗り物に乗った。はなんにでも乗った。お化け屋敷だけは嫌がった。それは俺も桂も同じだった。
もう日が暮れ始め、そろそろ帰らないといけない時間になっていた。



「ね、最後に観覧車乗ろう」



が言う。そして俺たちの前には観覧車。



「行こう」



または先に行く。それについて行こうと足を一歩出した。ニ歩を、俺は踏み出せなかった。



「どうした?」

「・・・行って来いよ。俺、ここにいるから」

「は?」

「まだ、言ってねぇんだろ?」

「お前、そんな良い奴だったか?」

「うるせー」

「・・・じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぞ」

「あぁ、どうぞ」



桂はのところへ行った。は不思議そうな顔をして桂を見てから、俺をみた。俺は人指し指を空に向けて差し、その後に口パクで無理と言った。
観覧車へと消えていく二人を見送った。
近くのベンチに腰を降ろした。

何を俺はしてるんだろう。これが正しかったのだろうか。
俺は恐れていた。を失うこと、桂を失うこと。俺がもし桂より先に告白していたなら、きっと桂は俺を捨てただろう。そしてがそれを断ったのなら、俺は居場所を失う。
あの時に桂に俺もが好きだと言っていても、きっと何かを失っただろう。失いたくないモノを。
俺には桂の心も、も心も分からない。だからそんな不確かなモノにぶつかって傷つくよりも、自分で自分を傷つけるほうがいい。俺はそう思った。だからそうした。誰も傷つかなくていい。誰も失いたくない。
俺は強がりの弱虫だった。何も失わなかったけど、何かを失った。だけど多分、それはいらないモノだから。だからいいんだ。

観覧車から降りてくる二人を俺は笑顔で出迎えた。



「景色は綺麗だったか?」



しょーもないことを聞く。



「うん・・・。綺麗・・・だったよ・・・」



嗚呼、桂は言ったんだ。が何かしらよそよそしい。



「帰るか」



桂がそう言って歩き出した。も俺もそれを追った。


はなんて返事をしたんだろう。二人はこれからどうなるんだろう。

なぜ二人とも、俺に何も言わないのだろう。



帰り道、ほとんど俺たちはしゃべらなかった。何故かそういう雰囲気だった。
電車の窓から見える景色はいつもと違って、やたら明るかった。いつもと違う場所。そこを走る電車の中で、いつもと違う俺たちの関係が成り立っていた。
それに気付いたのは、桂とが目があった時に互いに微笑んでいるのをみたからだった。


おめでとう。


そんな言葉を心の中で呟いて、心の奥では何かを悲しんでいる俺の声が聞こえた。




この夏の出来事を俺は忘れられないでいる。妙にリアルに、いつでも思い出せる。そしてそれは、とても色鮮やかに。






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   人生上手くいかないことのほうが多い。