酒と泪と男と女










「ねぇ、明日ヒマ?」



講義が終わった後に大学で仲良くなったさっちゃんが私に聞いてきたのは、週も終わりに近づいた木曜日のことだった。



「あぁ、うん。バイト休みだけど・・・?」

「合コン行かない?」

「え?あぁ・・・」

「一人突然無理になっちゃってさ。だから、お願い!!」



行きたくないという本音はきっと私の態度からさっちゃんはわかっていた。だけどそれでもお願いされてしまっては、断れない。
合コンに行ったからといって、別に必ずしも恋が生まれるわけじゃない。その場しのぎに適当にしてればいいだろう。



「行くよ。何時にどこ?」



思うんだ。どうしてそんなに出逢いなんかが欲しいのかって。恋なんて良いことばっかりじゃ無いし、別れが最悪ならそれを引きずってしまう。
―――― それは私だけなのか?

その場しのぎに適当にしてればいいだろうなんて思っていながら、なんだかんだでそれなりにキレイな格好をした。
―――― 結局私も求めているのかもしれない。
誰かに救われたいとか、報われたいとか、そんなことは思っちゃいない。ただ欲しい。過去を忘れ去ってしまえるようなモノが。それは恋愛じゃなくてもいいから。
必死になればなるほど、自分が哀れで情けない。



「じゃあ自己紹介していこっ!」



知らない男が4人座ってる。私はそうとしかとれなかった。
―――― 間違った。
来るんじゃなかった。適当に過ごすといってもどうやって?何を話せばいい?どうやって笑えばいい?
知らない間にカップルが出来ていて、席替えなんかされちゃって、私は右から2番目に座っていた人が自分の隣にいることにふと気づいた。



「酒飲まねェのか?」



隣の男が私に聞く。向こうもなんだかぎこちない感じで、なんとなく同じ匂いがした。



「お酒弱いんだ。前に飲んだら大変なことになったから」

「そうそう!、マジでヤバかったよね。超面白かったし」



話に入ってくる友人も、



「マジ?ちゃん呑んでみてよ。俺すげぇみてェ」



友人の隣に座ってノッてくる知らない男も、



「ハハハ。今日はやめとくよ。みんなに迷惑かけちゃうし」



ウザくてたまらない。



「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」



気持ち悪い。なんでこんな気持ち悪いんだ。
どうして私、こんなに性格が悪いんだろう。
適当に笑うぐらいしたらどうだ。適当に相づちぐらい打ったらどうだ。せめて、楽しいフリをしたらどうだ。
冷たい水で手を洗い流し、色んなことを決意してみんなのところに戻った。なのに・・・・。



「あの・・・・皆さんは?」



なぜだろう。なぜ右から2番目の男しかいないんだ。



「カップル成立したから夜の街に出て行くってさ。金はちゃんと置いてった」

「あぁ・・・・そう」



私は最初から変わらない席に腰を下ろした。気付けば彼は私の向かいの席に座り直していた。
向かい合って、ただ黙ったままで、無常にも時間は過ぎていく。
4人用のテーブルが2つ引っ付けられた大きなテーブル。主のいない6つの椅子。料理の乗っていない皿。2人ではあまりにも広すぎる空間。これをどうすればいいんだ。なんでこの人は、わざわざ残ったんだ。適当にメールで知らせてくれれば私だって勝手に帰ったよ。それともなんだ。あまりモノ同士くっつけってこと?人に、勝手な妄想や想像で幸せを押し付けるな。そんなもん、嬉しくもなんともない・・・。



「お前、それっ!!」



私は酒に手を伸ばし、それを一気に飲んだ。
彼が私の手から酒を奪った時にはもう時すでに遅し。私は中ジョッキを飲み干した。



「ッハー!!」



酔いが回ってくるのを感じる。頭が少しばかりクラクラする。自我を失っていく・・・・。



「てっかさぁー、君名前なんだっけ?全然覚えてないんだよねぇー。覚える気無かったんだよ。ハハハ、ごめんね?」



しっかりと覚えているのは私が酒を飲んだ後に言った最初の言葉を聞いたときの、驚いた彼の顔だけ。それからは、あまり覚えていない。



「大丈夫か?」

「お名前なんでちゅかぁ?ッハッハ」

「・・・土方十四郎」

「十四郎?何?四男?」

「長男だ」

「マジかよ!長男なのに十四郎かよ。次男なのにイチローみたい。ウケるぅ!!」

「別におもしろかねェだろ・・・」

「はぁい、ここでクイズでぇーす。あたしはもう恋愛なんてしたくねェって思ってるのよ。さて、なんででしょぉかぁ?」

「は?意味わかんねェし。あっ、てか、お前っ・・・」



私はまた酒に手を伸ばした。



「はい、答えをどぉーぞ」

「知らねェよ」

「正解はぁ・・・辛い別れをしたからなのです」

「普通な答えだな」

「普通のツッコミね」

「帰る」



彼が立ち上がったのを虚ろな目で見た。



「ちょっとちょっと、お兄さん冷たいねぇ。少しさぁ・・・あたしの愚痴を聞いてよ」



彼はため息をついて、椅子に戻った。



「んだよ。それ聞いたら帰っていいんだな。お前も帰るんだな?」

「帰る帰る。だからさぁ、聞いてよ。あたしの切ない恋物語をさぁ・・・・」



それから私は彼に、土方十四郎という人に、誰にも話さなかった事実を、実に流暢に喋ってみせたのだ。



「高校1年ん時だったなぁ・・・。告白されたんだったか、したんだったか忘れたけど、ともかく付き合いだした人がいたのよ」

「そりゃあ良かったな」

「そうよ、良かったのよ。ずーっと付き合ってた。高校3年まで。だけどある時のことでした。地方の大学行くから、遠恋は出来ないから別れようって言われたのよ。私はすんなり受け入れた。だって、仕方が無いと思ったのよ。人知れず泣いたけど、仕方が無いってずっと言い聞かせて、また新しい恋愛でもしてやろぉ!って思ってた」

「それで?」

「・・・・嘘だったのよ」

「・・・嘘?」

「そうよ、嘘!地方の大学に行くだなんて嘘だったのよ。大学の入学式が終わった帰りに見たの。その元カレを!ビックリしたぁ。嘘だと思ったからね、非通知で彼の携帯に電話したの。遠目に彼を見てた。電話の呼び出し音がしばらくしたら、その人が電話を見た。見間違いなんかじゃなかった。そんで、その横には・・・・同じ高校の同級生の女がいた」



ああ、涙腺が緩んできた。きっと酒のせいだ。



「すごく、笑えた。なぁんだ、そういうことだったのかぁって。・・・普通に別れようって言われるほうがよっぽど良かったわよ。あんな嘘をつかれて、あんな光景を見て・・・・どれほどあたしが傷ついたかなんて、アイツにはわかんないでしょうね。あんな、まだあたしに未練が残るような言い方をして・・・・」



くそぉ。泣くな。アイツに負けてしまった気がする。だから泣きたくない。私はきっと、負けてなんかないはずだ。



「ブッサイクな顔してんな。泣けよ。泣くの我慢してる顔は醜い。だけど泣いてる顔はそうでもねぇから。もっと吐き出せよ。聞いてやっから」

「・・・あんな奴を好きになった自分が大嫌い!あんな嘘をついたアイツはもっと大嫌い!だけど・・・あっしは・・・ちゃんと恋をしてたんだ。もう・・・・もう恋なんか・・・したくない」

「そんだけか?」

「・・・うん。もぉいい。考えるだけしょーもない気がする。・・・ありがと。アンタに言ったのがはじめてよ。ハハ」

「ほら、帰るぞ。送ってってやるよ、家何処だ」

「カバン中にねぇ、住所と最寄の駅からの地図書いたのが入ってるからぁ・・・」

「なんでそんなもん持ってんだよ」

「高校の時にねぇ、友達があんた酔っ払った時に困るからぁって作ってくれたんだぁ」

「良い友達だな」

「元カレの横にいた人だけどねぇ」

「・・・・」



フラフラになった私を支えるようにして、彼は私の横を歩いていた。
なぜ私は、彼にすべてを話したのだろう。
―――― きっと酒のせいだろう。

目覚めた朝の私の部屋に、彼の姿があった。






next



------------------------------------
   元カレは誰か決めていません。
   アンケするかもしれません。
   その時はご協力お願いします。