縁は異なもの、味なもの









私の記憶は途切れていた。昨日の最後の記憶は溝にゲロを吐いたこと。それ以降の記憶は無い。
重い頭を持ち上げて、私は自分の部屋を見渡す。床に寝ている土方十四郎などという人がなぜここにいるのかを考えても、思い出せるはずもない。
もぞっと彼が動き、私はビクリとした。そして同時に何かが口のほうへと押し寄せてくるのがわかった。私は口を手で塞ぎ、トイレに駆け込んだ。その途中で確実に何かを踏み、そしてそれが呻き声をあげたのを聞いた。
ゲロを吐き終え口を水ですすいで部屋に戻ると、腹を抱えている人が目に入った。その人は唸っていた。



「あの・・・なんでいるんですか?」

「なんっで一言目がそれなんだよ!!いってェな。まず踏んだことを謝れ!!」

「すみません。それで、なんでいるんですか?」



彼はゴホゴホと咳こんだ後に起き上がった。
1DKの私の部屋に客が来たのは初めてだった。2人でも確かに窮屈では無かったが、私の心は窮屈だった。
彼を見下ろしている。それが気に食わなかったのか、「座れ」と自分の家なのに彼に言われた。



「お前、昨日のことどこまで覚えてる」

「溝にゲロを吐いたことまでです」

「だろうな。そっからお前は最悪だったんだ!!もう歩けないっつって、へたり込んだと思ったら寝やがって。電車に乗ろうにも恥ずかしくて乗れるわけもなく、歩いたんだぞ!!てめェを背負ってだ!!わかるか?」

「・・・・はい」

「お前の家に着いたらもう終電無くなったから泊まらざるを得なかったんだ。わかったか?」

「わかりました」



世話をかけてしまったんだな。あまり関わりを深くはしたくなかったのに。



「えと・・・朝ご飯食べますか?私はご飯派なんですけど、パン派ですか?」

「もう昼だけど」

「えっ!?」

「時計見て見ろよ。もう12時過ぎてる」



私は時計を見た。なんということだ。今日は10時からバイトだというのに、もう10時なんてとっくに過ぎている。行く用意をしようと立ち上がったものの、フラついてしまい、彼のほうを向いて彼のところに倒れてしまった。



「なっ・・・・なんだよお前。そっ・・・・そういうことは・・だな」



彼は何やら勘違いしているらしい。彼の体が私のほうへと近づいてくる。



「何するんですかっ!!」



私は彼を突き飛ばした。彼は棚に後頭部を強打した。



「私、バイトなんです。なんで携帯鳴らなかったのよ」



昨日のカバンを探って携帯を出す。電源が切れている。電源ボタンを押す。けれどもうんともすんともいわない。電池が切れているらしい。



「お前、バイト行くのか?」



後頭部を手で押さえながら彼が言う。



「そうです」

「そんな酒臭いのに行くな。二日酔いもしてんだろ?」

「だけどそれは私の自己管理がなってなかったからだから・・・」



気持ち悪さが押し寄せる。手を口に当てる。彼がギクリと嫌そうな顔をした。



「トイレ行け!!」



私はまたトイレに駆け込んだ。彼の言う通り、こんな状態ではバイトに行っても逆に迷惑をかけるだけだ。私はバイトを休むことを決意した。
携帯を充電器に繋げて、バイト先に電話をした。失敗した。何にかというと、タイミングだ。今は昼日中。一番忙しい時間に電話をしてしまった。なのに電話に出た奥さんは、電話をしたのに出ないから心配してたのよ。良かったわ。安心した。今日は仕方ないわね。と言ってくれた。
申し訳なかった。甘えてしまったことに後ろめたさを感じた。どうして勢いで呑んでしまったんだろう。馬鹿な私。
彼は腹が減ったと言って、私の自分へのご褒美として買ったラ王を勝手に食べた。本来ならば殴ってやりたいが、昨日迷惑をかけたことを考えるとそうはできなかった。仕方なく私は普通のカップラーメンを食べた。
なぜか向かい合って食べる。言葉を交わさず、テレビの音がこの空間を繋いでいた。
考えれば考えるほど、この空間は奇妙奇天烈だった。
名前しか知らない男女がなぜ向かい合って食事をしているんだろう。というより、彼は私の名前を覚えているのだろうか。



「あの、私の名前覚えてます?」



彼はラーメンを食べる手を止め、箸の先を私に向けた。



。違うか?」

「一字一句あってます」

「俺もお前に聞くけど、なんでさっきから敬語なんだよ。言っとくけど、俺は浪人してねェぞ。同い年だ」

「距離を置きたいから敬語なんです。あの、お前って呼ぶの止めて下さい」

「お前が敬語止めたらな」



嫌な人だ。人のラ王を勝手に食べるし、なぜか部屋にいるし。



「昨日の夜、変なことしてないですよね」

「安心しろ。してねェから。んでもって、敬語を止めろ」

「早く食べて帰って下さい」



気分が悪い。なんだこの人は。早く家から出て行ってくれ。こんな運命を私は望んではいない。人と関わるのは、特に男と関わるのは嫌だ。しかも合コンに来てたんだから、彼女がいない訳だし、そういうことがしたいんだと思う。恋とか色恋めいたこと。
今、私はいらない。そういう類のモノは。
ラーメンを食べ終え、彼は立ち上がって玄関に向かった。私は彼を見送る気など無かったから、黙ってラーメンを食べ続けた。



「一個だけ言っとく」



彼がしゃべり出した。だけど私は彼のほうを見なかった。



「昨日の夜、お前の携帯いじった。アドレスと番号貰ったから。じゃあまたな」



私は驚いて振り返って彼を見た。ニヤリと嫌な笑いが見えた。言葉が見つからなくて、私は何も言えなかった。
その夜土方十四郎からメールがきた。


『土方十四郎。ちゃんと登録しとけ。してなかったらぶっ殺す』


殺してみろよと思った。






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   土方さんは不器用だから横暴になる。