はじまりの唄









日曜日に携帯のアドレスを変えた。そしたら今日の朝、月曜日に電話がかかってきた。すぐに切った。薄らストーカーかと思い始めたけれど、彼が私を好きになる理由など、私には見つけられなかった。



!あの後どうだった?」



一緒に合コンに行った友人がなぜか嬉しそうに、そして楽しそうに聞いてきた。



「どうなったとかじゃなくて、なんでみんな勝手に帰ったの?あんなのヒドいよ!!」

「仕方ないじゃない。あの残った人いるでしょ?あの人がてめぇら全員帰れって言ったの。俺は今トイレに行った女と2人きりになりたい。とか言ってさ。なんかあの人あの中じゃ権力あるみたいで、みんな素直に言うこと聞いてさ。良かったじゃない。好かれてんじゃない?」



なんだって?何?我が儘な男。ていうか、本当に?



「ウソでしょ?」

「本当よ。こっちだってビックリしたわよ。で、なんかあった?」



楽しそうに聞いてくる友人に、私は澄まし顔を作って言った。



「何にも無いわよ」



言えるわけが無い。一晩を共にしたなど。おそらく何もなかったのだろうけど、どうにも不甲斐ない。










「遅せぇんだよ。早く帰って来い」



バイトから帰ってきた部屋の前に彼が、土方十四郎がいた。疲れた体に疲れがまたどっとくる。



「なんでいるんですか?警察呼びますよ?」

「携帯のストラップ無くしたんだよ。探したけど無くって、ここだけ探してねぇから来たんだ。そんでもって敬語をやめろ」



どうしてそんなにも敬語を気にするのだろう。変な人。



「待ってられると怖いんですけど」

「俺が電話したのにすぐ切ったのはお前―――― じゃなくて・・・・だろ」



なぜをチョイスした。



にして下さい」

が悪いんだ。その後も電話に出なかったろ」



この人・・・血圧高そう。



「ここで待ってて下さい。探してきますから。ストラップ、どんなのです?」



鍵を開けながら聞く。扉を開けた瞬間、私よりも先に彼が入って行った。



「ちょっと!!」



実に図々しい。勝手に入って行き、勝手に散策し始めた。ここまで来るともうどうでもよくなってしまった。私は食卓のイスに座ってその彼をみていた。
じっと彼を見たのは初めてだった。ずっと極力目を合わしたり、見たりしないようにしていた。
黒い髪。骨ばった手。体格もいいようだ。男を意識させられる。それが心地悪い。
彼の骨ばった手が部屋の隅のクッキーの缶に伸びた。



「ダメ!!」



私は立ち上がって彼の服の襟を後ろから掴んで引っ張った。
世界一有名なネズミのキャラクターの友達のアヒルの声みたいな音がした。



「はなっ・・・・はなせ・・・・・死ぬ・・・・」



私は手を離した。彼が咳こんでいる間に私はクッキーの缶を手に取って、冷蔵庫に突っ込み、両手で勢いよく扉を閉めた。



「なんだよ。なんでそんな必死こいて隠してんだ」

「あなたには関係ありません」

「元カレとの思い出か?」




いやに鋭い彼が憎たらしかった。
全てを話してしまった彼に今更ウソをついても、なんの意味も効力も無い。言ったところで何も変わらない。
なぜか私はそう思った。



「・・・・そうです」

「ほぉ〜・・・・あ、ストラップあった」

なんの「ほぉ〜」なのか、どうして癪に障るのか、私にはわからなかった。いや、なんとなくわかってはいた。わからないフリをしていたかっただけだ。彼に弱みなど握られていないのだと、自分を見くびられないようにするために。



「あったなら帰って下さい」



彼はマヨネーズのストラップを携帯につけていた。



「敬語やめろ。なんかムカつく」

「何がムカつくんですか?」

「敬語の質問には答えねェ」



なんと子供なのだろう。そしてなぜ、さっさと帰らない。ここは私の家だというのに彼はくつろいでいた。憎たらしい奴だ。家に帰れ。



「友達に聞いたんです」



ここで私の想像する彼ならば「何を?」などと言うと思った。しかし彼は自分の言ったことを守ってみせようとしているらしい。何も言わずに勝手にテレビをつけた。



「合コンの時、あなたがみんなに帰れって言ったって。2人きりになりたいからとか言って。本当なの?」



予想外だった。きっと彼は「んなわけねェだろ」とか、そういう汚い言葉を吐いた後にでも、ウソだと言うような、気の迷いだったとでも言うような、そんな言葉が向けられるのだと思っていた。
彼は驚いた顔をしながらも、顔が赤くなっていった。口を開けたが何も言わない。言葉を探しているらしい。



「敬語じゃないんだから答えなさいよ」

「おっ・・・お前っ・・・なっんで・・・・」



顔が赤い。顔をよく見たのも初めてだ。カッコ悪くはない。とだけ言っておこう。



「誰から聞いた」



私から目をそらし、さらには顔を背けた。予想外の反応が面白かった。



「友達から聞いたの。なんでか理由言ってよ」



彼は深呼吸を一つした後に立ち上がり、私の座っている食卓のテーブルの開いている私の前の椅子に座った。



「こっちを見ろ」



私は仕方なく彼のほうを向いた。



「何?」

「一回しか言わねェからな」

「一回は言うのね」

「・・・・・・俺はな、お前のことなんとも思ってねェ」



私に指を差しながらいう。そんな赤い顔をして言われてもなんだか説得力がない。おそらく彼は他のことを言おうとしたのだろうけど、プライドかなんかが邪魔をしたのだろう。
なんとなく・・・・わかりやすい人だ。



「理由を聞いてるの。それは理由じゃない」



彼は大きなため息をついた。ため息をつきたいのはこっちだ。



「俺は・・・・・お前に惹かれてる」



・・・・・・・・・・・・・彼は何を言った?惹かれてる?それはどういう意味だ。たかが合コンで、愛だの恋だのが生まれたとでもいうのか。笑わせないでくれ。私はそんなもの、欲しくない。いらない。望んでない。
あの時間で私の何がわかったいうのだ。何を知って、惹かれてるというのだ。



「あんな短時間で何がわかるっていうのよ」



その時私は自分に問った。
―――― 時間は関係あるの?
あんなに長い間一緒だったのに、何もわからなかったじゃない。あんな風に裏切られたじゃない。



「時間は関係ねェよ」



彼は強気に言ってのけた。



「時間は関係ねェ。大切なのは気持ちだ。俺はそう思う」

「そう・・・。帰んないの?」

「帰るさ」



彼は帰って行った。私に訳のわからないくだらないモノを残して。






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   ここ・・・見えない・・・。
   書くことも特にない・・・。