暖かい言葉と冷たい思考









彼のいなくなった部屋は広く感じられた。いつもの自分の部屋なのに、違う気がした。きっと奴があんなことを言ったからだ。
私は恋なんて、どうでもいい。
ごめん。土方十四郎。私はあんたに惹かれない。





好きな人に偶然出会ったら、それを人は運命という。別に好きでもない人と偶然出会ったら、それはただの偶然。
気持ちというのはとても重要なモノだ。
だけど私は運命なんて信じてないの。信じた運命は、運命じゃなかったから。



「よぉ。偶然だな」



彼にとってこれは偶然としてとらえられるのか。それとも運命となるのか。
電車の中で椅子に座って本を読みながら降りる駅が来るのを待っていたら、私の前に彼が立ち、さっきの言葉を言ったのだった。



「嫌な偶然」

「失礼な奴」

「人の前に突然立つのも失礼じゃない」

「どっか行ってたのか」



なんだか気に障る質問ですこと。



「どこでもいいでしょ」

「俺ん家、次の駅だから来るか?」



この男はバカだろうか。昨日あんなことを言った男の家にのこのこ行くとでも思っているのか。



「あんたって実家なの?」

「名前で呼べよ。お前一回も呼んでねェよな。あんたとか言って」



細かい男・・・。



「ひ・じ・か・た・く・ん・は!!実家?」

「1人暮らし」



なのに誘ったのか。変態?



「実家どこ?」

「田舎」

「大ざっぱね」

「お前は?」

「3駅前」

「近いじゃねぇか。なんで1人暮らししてんだよ」

「うるさいな。国立大だから1人暮らししていいって言われたの。だからよ。悪い?」

「ほら、降りるぞ」



話を聞いてない。
彼は私の腕を掴んでグイッと引っ張った。
強引・・・・というか自己中。本当に何考えて生きてんだろ、この人。
疲れるな・・・。



「帰りの電車代出してくれるんでしょうね?」



前を歩く彼に仕方なくついて行きながら私は聞いた。



「は?んでだよ」

「なんでって、あんたが勝手に私を下ろしたんでしょ?私ちゃんと家までの切符買ってたんだから」

「2駅ぐらい歩け」


そう、それは今日発覚した事実。あくまで私の中だけれど、彼はそこそこ近くに住んでいたのだ。まったく嬉しくない。
駅から歩くこと10分。ボロっちい木造のアパートが見えてきた。まさかのまさかで、ここが彼の城だった。



「ほら、入れよ」

「・・・・・・」



なんだか・・・・嫌だ。



「帰ります。明日バイトあるし」

「明日のことは関係ねぇだろ。馬鹿じゃねぇの」



こいつは本当に何を考えて生きてるんだ。意外と単純馬鹿かもしれない。



「あんね!普通に考えて、フッツーに考えて!あんなことを言われた男の1人暮らしの家にノコノコ行く女なんかいるわけないでしょ!」

「お前、やらしいこと考えてんだな」



もしも神が人を1人殺すことを許してくれるならば、私は今、真っ先に彼を殺すだろう。



「別になんもしねぇし。けど、嫌なら帰っていいけど。またな」



なぜかあっさりと彼は了承した。なんだ、あの温度差は。ていうかさ、またなってなんだ?また会うの?どういう名目で?理由で?
彼は自分の部屋へと入って行った。私はとぼとぼと駅へと歩き出した。
―――― どうして私、あの人に振り回されてるんだろ
悲しくなった。哀れになった。切なくなった。情けなくなった。悔しくなった。私はアイツといる時、確実に余計なことを考えてない。どうしてだろうか。彼のことなんて、なんとも思っちゃいないのに・・・。



「おい」



声がする。振り返る。彼がいる。



「な・・・何?」

「電車賃。渡してなかったから。悪かったな。俺もなんか・・・・無神経だった」



私はずっと1人の男しか見てこなかった。他の男には目もくれず、ただ一途に彼を好きでいた。だからわからない。こういう人とどう接したらいいのか。ああ、そうか。だから私、過去のことを何も考えないんだ。どう接するかで必死になりすぎて、正解をそれなりに探して必死なんだ。




「わざわざ、ありがと」

「意味の無いことなんて、きっと世の中にはねぇよ」



彼がそう言った。私は理解することができずに、ただ彼を見た。



「運命とか、そういうモノで片付けたら全部それで終わる。だけど、それで終わらしたら人は前に進めない。お前は前に進もうとしてる。だから色んなこと考えて、苦しんでんだと思う。だから俺は、それを少しでも一緒に背負いたいと思う。お前が笑ってくれたらって・・・・・思うんだ」



返す言葉が見つからない。何を言われたのか、イマイチ理解できない。どうしてだろう。なんでだろう。涙が・・・・涙が出てくる・・・・・。



「私は・・・・可哀想でも、なんでもないよ。そんな風に言われたら・・・・・私はあんたに同情してほしいみたいじゃない!・・・・そんなこと思ってない。自分が可哀想だなんて思ってない!そんな風に思われるような・・・・私は・・・・」



自分でも、何を言いたいのかわからないまま話していた。ただ、私は苦しめられていない。信じた運命に裏切られたことぐらい、きっとなんでもないと言い聞かしてきた。なのに、そんなことを言われた、まるで・・・私は・・・・・。



神様、言葉をください。
誰も知りえない言葉でもいいから。
だから、私のこの気持ちを表す言葉をください。



「俺はお前を知らないから、知りたいと思う」



ねぇ、どうして。どうしてあなたは私を見るの。知ろうとするの。
だって私はまだ、あの日から多分、前に進めてない。
誰よりも好きだった、あの人と別れた日から。






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   土方のキャラがぁぁぁああ!!
   ひたすらにごめんなさい。