夢と見做した現実









『土方十四郎にもうこれ以上迷惑をかけない』

それをモットーにしていこうと決めたのは、あの泣いた日だった。
あれから私は何も言わずに駅へ向かった。土方くんは追いかけて来なかった。サヨナラも言わなかった。だけどまだ、この変梃りんな縁は続いているような気がしてならなかった。そしてそれは、確かにそうだった。



「あれ?退くん、5時から入るって・・・?」

「そうなんだけどね、今なんか先輩が来たらしくて・・・・」



バイト先の洋食店の孫が退くんである。田舎からこっちの高校に来たらしく、祖父母のこの家に暮らしていて、そして店を手伝っている。立派だなぁと、心の中でひっそりと思っている。



「先輩ですか。それだったら断りにくいですね」

「ごめんなさいね。5時までなのに。予定とか入ってない?」

「はい、大丈夫です」



私にとって先輩というモノは本当は想像しにくい。中高と部活に入らなかったし、知り合いでも先輩はいなかった。だけど私が軽く想像するに、上下関係という名が付いているのだから下の者が上に逆らうことはできないということだろう。
ふと、階段から足音がした。それは興味本位だった。先輩という存在を見てみたいと思った。二人がどんなやり取りをしてるのかと気になった。未知に対する興味。そんな言葉をかっこよくつけてみた。



「あ、さん。すみません、今から入ります」

?」



見なけりゃよかった。未知に対する興味なんていらなかった。確実にそれは聞き覚えのある声で、会いたくない人の声だった。



「ここで働いてんのか?」

「・・・・」

「知り合いですか?」

「まったく知りませんね。そんな変態」



土方くんの舌打ちがひっそりと響いた。もし神が許すなら、運命かなんか、そこら辺の神を私は滅する。



「あ、退。ほら、早く入って。じゃあちゃん、上がっていいわよ」



バッドタイミング。少しだけ、おばさんを憎んだ。



「飯食うか?」



なぜ提案する。なぜまた一緒になる。私のあの涙を、なんと理解する。



「食いません。食べません。あなたと一緒に過ごしません!」



成り行きというのは怖いモノである。また、無知なおばさんというのも怖いモノである。
おばさんは私たちをなんと理解したのか知らないが、なぜかオススメのお店を予約して下さった。何やら知り合いの店らしく、雰囲気がいいからと言った。
もう、どうにでもなればいい。



「結局こういうことになるんだな」


そのオススメの店に行くために、一緒に歩いていたら彼が少しばかり嬉しそうにそう言った。



「最悪」

「現状を楽しめ。そうしないと人生は楽しくない。そう高校の時の教師が言ってた」



何も言葉を返さなかった。返す言葉が見つからなかったし、なんだかもう本当に・・・どうにでもなれ。



「あ」



彼の足が止まった。仕方なく、私の足も止まる。



「どうしたの?」

「いや、知り合いがいるから・・・・声掛けてっていいか?」

「どうぞどうぞ。ここで待ってますから」



彼は駆け出した。私はそれを見ていた。そして、その向かう先にいる人を見た。自分の顔から、血の気が引くような気がした。
―――― 違う。きっと違う
そう祈りながら私は彼を見た。彼が話しかけた相手を見る。知っている。知っている人。多分二度と会わないと思った人。少しのつながりを持っていた人。
体が震えているような気がした。気分が悪くなってきた。どうしよう・・・・。

私は走ってその場から逃げた。

誰か、助けて。

大きな声で私に

嘘だと言って。








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   次は土方目線でお送りします。