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思い出と現実
目を閉じて夢を見た。だけど目を開けた時にはその夢は忘れていた。幻のように消えていく。アンタみたいだ、総悟。 嫌な夢を見た気がする。総悟が出てきた気がする。土方くんも何か言っていた気がする。 「・・・さん。さん!!」 「あぁハイ。何?退くん」 「もうあがっていいですよって何回も言ってるじゃないですか」 「ごめん。飛んでた」 「そうだ。ちょっと待ってて下さい」 退くんはドタバタと部屋に向かった。しばらくすると戻って来て私にCDを差し出した。 「これ、土方さんに渡してください」 ・・・・・ん? 「ちょっ・・・たんま」 「タンマとか聞くの久しぶりなんですけど」 「そういうツッコミいらないから。それより退くん。確実に勘違いしてる。私と土方くんはそういう関係じゃないから」 「わかってますよ。だけど多分、俺より先にさんのほうが土方さんに会うと思うんで」 彼の言うことに深い意味はあるのだろうか。そんなことを思いながら渋々CDを受け取って帰路についた。また会うのか。理由ができてしまった。 今までは理由なんてなかった気がする。偶然ばかりでそれを運命仕立てにして、形の無いものを憎んだ。偶然も運命も、どこかで願う自分がいたからかもしれない。 いつだって心構えの無いままに出会った。 「・・・・だから、警察呼ぶってば」 いつか見た景色。部屋の前に座り込んでいる土方くん。 「電話したけど出なかった」 「携帯忘れたの。で、何?」 「飯を・・・・・・・飯を一緒に食おうと思って。前、行けなかっただろ」 そう言った彼の手にはスーパーの袋があった。 「どっか食べに行くんじゃないの?」 「うるせー。早く開けろ」 申し訳なさそうに私から目をそらす。ふと私は笑ってしまった。なんだろう、この感じは。 「お前が笑ってんの初めて見たかもしれない」 「何言ってんの?気持ち悪・・・」 部屋に入って土方くんは台所に立った。私は何をすんなり彼を部屋に上がらせてるのだろう。 「なぁんでレトルトカレーなの」 彼が皿に盛ってきたのは立派なレトルトカレーだった。楽しみにしていたのに・・・。 「下手な料理よりかはいいだろ。味の保障があんだからよ」 「期待すべきで無かった・・・」 「悪かったな!!」 皿とスプーンがぶつかる音が響く。私も彼も「おいしい」も「不味い」も言わずにただ食べていた。 会話をしたことはあっただろうか。いつも私たちの周りには音があって、それが空間を満たしていた。私は知らない。彼がどこの大学に行っていて、何を学んでいるのか。誕生日も血液型も。 私たちは互いに互いをあまりにも知らない。 「また・・・・また一緒に飯食おう。その時はちゃんと店で食おう」 「私は・・・形式ばったものとか、堅苦しいのとか苦手だから、こういうほうが性に合ってる」 気持ちのこもってない言い方をしたことを後悔した。 「そうか・・・?」 「うん」 照れくさそうに彼が笑う。私はただカレーを食べ続けた。 私は最低だ。 わざわざ片付けまでして彼は帰って行った。私はいつの日からか冷蔵庫に入れっぱなしなっていたクッキーの缶を取り出した。 冷え切っていて手が冷たくなる。パコンという音を立てて缶を開く。 あの頃の宝物たち。笑ってる自分と、その横に笑った人。あの頃のおそらくすべて。 悲しみも喜びもあなたがいたから色鮮やかに輝いた。 私はここにいる。あなたはどこにいますか?私のことはもう忘れましたか? あの頃のすべては、ウソなんですか? ------------------------------------ ウソも真実で、真実もウソならば 何を信じて生きていこう。 |